永住者採用の意義と共生を見据えた人材活用の視点
永住資格を持つ外国人であれば、企業側には、以下のようなメリットがあります。
- 就労制限がない
- 在留期限がない
- 勤務時間の制限がない
しかし、それ以上に企業として持ちたい視点は、「永住者がどのように職場になじみ、組織の一員として共に働けるか」という視点です。
そのため、永住者の採用に関しては、共生を前提とした人材活用として、次のような姿勢と取り組みが欠かせません。
- 配属・業務開始前に業務ルールだけでなく職場の文化や価値観を丁寧に伝える
- 日本人社員にも「文化や言葉の違いを前提にした関わり方」を意識させる
- 永住者の気づきや提案を受け止め、現場の改善に活かしていく
- 時間をかけて信頼関係を築き、チームの中核として役割を広げてもらう
とくに、チームとして機能してくれる永住者は、他の外国人従業員にとって相談役や通訳的な存在となるケースも多いといえるでしょう。
多様な人材が混在する職場において、橋渡し役としての価値にも期待可能です。
仮に外国人採用で補助金の活用を考えている場合は、以下の記事から。
2025年5月版|外国人採用に役立てられる補助金・助成金一覧(1)
2025年5月版|外国人採用に役立てられる補助金・助成金一覧(2)
業界別・永住者の採用・活躍モデルケース
ここでは、建設業と運送業における永住者の採用・活躍モデルケースについてみていきましょう。それぞれの企業が抱える課題と、永住者がもたらした変化から自社の課題と照らし合わせることが重要です。
建設業|職種別のスキル評価を活用し、永住者を多能工・現場リーダー候補へ
K県の従業員数30人のN建設会社では、在留期限がなく就労制限もない永住者の採用に着目しました。
日本語能力がある程度高く、日本の施工現場での経験がある人材を対象に、職種別に段階的な配置を行う方針を採りました。採用前に抱えていた主な課題は、次のとおりです。
- 特定技能1号の在留期限満了後の人材ロスが続いていた(特定技能2号への移行ができるサポート体制が整えられていなかった)
- 工種ごとの技術レベルを安定させるだけの人材を確保できなかった
- 多能工やリーダー層に育てられる人材が定着しにくい傾向があった
課題に対して、永住者の採用を行ったことで、現場は大きく変化しました。多能工として、型枠や資材運搬など比較的習得しやすい工程に配属し、1人ずつ担当者を付けてマンツーマンで指導を行っています。
とくに、日本語での安全教育を説明しやすく、他の外国人実習生に対する通訳的な立ち回りも可能だったことから、現場全体のコミュニケーションが円滑になりました。配属から半年後には、2つ以上の職種をこなせるようになり、多能工としての役割も期待できるようになりました。
本人の希望と適性を踏まえて、建設機械施工の資格取得に向けた支援を開始し、3年以内には主任クラスとして現場のまとめ役を担ってもらう計画も進行中です。
今後の方針として、以下の取り組みを意識していくとしています。
- 永住者を中心とした多能工チームの編成と現場への固定配属
- 特定技能や技能実習から永住へ移行した人材の受け皿として制度整備(特定技能1号から2号移行のサポート体制も整備)
- 中長期的に現場監督補佐や現場教育担当への登用ルートを設計
永住者の採用によって、建設現場に必要な安定的な人材確保と技術継承のための育成計画を同時に進めることが可能となりました。
今後も継続して働いてくれる人材を軸に据えた人員構成を行っていくでしょう。
運送業|永住者を小口配送から中距離便へ。免許取得支援と連動した人材育成モデル
運送業では、ドライバーの高齢化と採用難、2024年問題による労働時間規制によって、人手不足が深刻化しています。
とくに中型以上の免許を保有する人材の確保が困難であり、業務量に対して人的リソースが追いつかない状況が続いています。
このような状況をふまえて、ある中堅の運送会社では、永住者資格を持つ外国人材の採用を開始しました。
すでに日本の普通自動車免許を取得済みで、日本語による日常会話が可能な求職者に限定し、生協宅配やコンビニ配送など、軽車両で対応できる小口配送に配属しています。導入前の主な課題は、以下のとおりです。
- 中型免許を持つ即戦力人材が集まらない
- 外国人材は日本語理解や接客に不安があるという先入観がある
- 新人教育に時間がかかり、現場負担が大きい
永住者は、日本語での業務説明がスムーズであり、タブレット端末によるルート指示や配送管理も数日で習得しています。
また、配送先での簡単な会話やクレーム受付にも自然に対応できることから、指導担当者の負担も大きく軽減されました。
採用から3か月後には、中型免許取得を希望した本人に対し、会社が費用全額を負担する制度を適用し、中距離便への異動も実現しています。
社内の変化としては、永住者が配属されたエリアでの欠員補充率が安定したことに加え、本人が新人研修に加わることで、教育時間の削減と定着支援が同時に実現しています。
日本人社員と比較しても、長期的に働く意志が明確であり、時間をかけた育成に適しているという評価も定着しつつある状況です。今後も年に数名のペースで永住者の採用を継続し、以下のような取り組みを計画していく予定です。
- 永住者向けの免許取得補助制度の拡充
- 運行管理補佐や車両整備業務などへの職域拡大
- 外国人社員の受け入れマニュアルや研修体制の標準化
このモデルケースでは、永住者の免許の有無や日本語力に応じた段階的な配属と、生活基盤の安定性を活かした人材育成が課題解決に役だったといえるでしょう。
まとめ
人手不足に悩む企業にとって、永住者の採用は即戦力と長期的な人材育成の両立が可能な有効な手段です。
制度的なメリットだけでなく、現場に溶け込む力やチームでの役割も期待できます。
採用には長期的な「共生」の視点を持ち、相互理解と信頼構築が欠かせません。業界や企業ごとの課題に応じて、段階的な育成と定着支援が大切だといえるでしょう。
LTBでは、玉掛けやクレーンや大型免許を持ってダンンプを運転している永住者・定住者・日本人の配偶者、帰化した外国人が毎月100名ほどお仕事を探すために登録をしてくれている状況です。技能実習生に限らず、外国人労働者の採用幅を広げてみませんか?